果実に一人一言

 

 

誰もいない町内の、旧中学校がある道。

真向かいには古びたパン屋。

あそこのサンドイッチが美味い。

 

中学生だっただろうか、昼時、僕は散歩をしていた。ちょうど今くらい半袖短パンで。

部活がなかったので浮かれていた。

 

何故か音のない旧中学校の体育館から音がした気がした。あまりにも静か過ぎたから、何か音のしそうな体育館からシューズの擦れる音とか、そんなのが鳴ってる気がした昼時だったんだと思う。

 

静か過ぎて心の声が聞こえる。

 

あーあ、アイツらは今何してんだろうか。

 

俺が空手に行く前に大好きだよって伝えていればなんか少しは気が楽になったんじゃねえかなぁ。

とか

 

夜帰って探しにいけば良かったなとか。

 

物になってたアイツのお陰で今の俺がいる。

綺麗なままだったのは親切か、懺悔か、道に寄せてくれたんだろうな。

 

立ち直れなかった。もうあの可愛い声が聞けないのか、蟹を食べる時だけ美味しいって唸る変わった猫だった。

 

猫なだけで家族。姉ちゃんであり、妹みたいだった。

 

外はまだ少し寒くて、寂しかったろう、ごめんな。

 

もう黒くて赤のわからないアスファルトになっていた君の色。

 

ありがとうとごめんねしか言えなかった。

 

 

もう1人の姉ちゃんは俺を待って寿命で死んだ。

部活から帰って来てただいまって言ったら少し動いて死んだんだよな。

 

おれが赤ん坊の時から一緒にいた。

きっと赤ん坊の時の俺の事はお前が1番よく知っている。

泣いていると側に来て座ってさ、泣き過ぎて頭を叩かれたっけかなあ。

それはお前じゃなかったかかなあ。

 

硬い毛並みが大好きだった。

 

綺麗な顔立ちだったから。なぁ。

 

お前がいなきゃ俺は俺じゃなくなっていた。

音楽もしてない。何もしてない。

 

今日特に何があったとかそういうわけじゃないけど。

今日俺は何か変わった気がする。

 

最期、家族が輪になってお前に一人ずつ言ったんだよね。

 

ありがとうって。

 

モモとメロンに

有難うって。

 

 

 

 

 

そんな時に降りて来た歌。

何にも音楽も将来も志してない、俺に急に降ってきた歌。

だから歌って欲しかったんだよな、お前らは。

 

負けねえぞ。